書くことの必然 木村朗子『震災後文学論 あたらしい日本文学のために』について

震災後文学論 ―あたらしい日本文学のために― 作者: 木村朗子 出版社/メーカー: 青土社 発売日: 2013/11/22 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (5件) を見る 著者は津田塾大学の教授で、専門は日本の古典文学らしい。専門が現代文学じゃないから、と意地…

小説家の足音 木村紅美『雪子さんの足音』について

雪子さんの足音 作者: 木村紅美 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2018/02/02 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (5件) を見る 木村紅美は卓抜した文章家と言われる。それだけでは宣伝文句にならないからか、登場人物の心情を詳細に書くのが巧みだとい…

再建のための一章 木村紅美『まっぷたつの先生』について

まっぷたつの先生 作者: 木村紅美 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2016/06/21 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 二〇一二年の『夜の隅のアトリエ』で浮上してきた木村文学の新たな問題は、倫理と罪悪だった。それが震災と関連す…

亀裂をめぐる試論 木村紅美『夜の隅のアトリエ』について

夜の隅のアトリエ 作者: 木村紅美 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2012/12/14 メディア: 単行本 クリック: 1回 この商品を含むブログ (10件) を見る これまでの木村文学と比較したとき、異質の昏さがある。傑作や佳作と、容易に断言することが躊躇われる…

薔薇の蒔き直し 木村紅美『春待ち海岸カルナヴァル』について

春待ち海岸カルナヴァル 作者: 木村紅美 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2011/12 メディア: 単行本 クリック: 6回 この商品を含むブログ (6件) を見る 海辺の宿を木村紅美が舞台に選んだのは、単行本化された小説では二冊目だ。一冊目の『島の夜』は、その…

革命への片恋 稲葉真弓『ホテル・ザンビア』について

ホテル・ザンビア 作者: 稲葉真弓 出版社/メーカー: 作品社 発売日: 1981/02 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 小説家としての初期の遍歴がよくわからない。一九七三年、二十三歳で婦人公論新人賞を『蒼い影の痛みを』で受賞したものの単行本化…

黒い字の音楽 木村紅美『黒うさぎたちのソウル』について

黒うさぎたちのソウル 作者: 木村紅美 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2011/02/25 メディア: 単行本 クリック: 8回 この商品を含むブログ (3件) を見る 「島」の小説は難しい。木村紅美は水に重きを置く作家だろうから、川や岬に、あるいは島へ行き着くの…

淵を渡る祝福 木村紅美『見知らぬ人へ、おめでとう』について

見知らぬ人へ、おめでとう 作者: 木村紅美 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2014/03/20 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 木村紅美の小説の基調音は別れであり、『風化する女』から水辺はいつも告別の場所である。『花束』の海沿いの崖は現実…

記憶への歩調 木村紅美『月食の日』について

月食の日 作者: 木村紅美 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2009/09/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (8件) を見る 小説の描写とはどういうものだろう。大袈裟な問い方になるけれど、素朴に考えるなら、描写とは次の書き出しのようなものだ。 有…

水生するさびしさ 木村紅美『花束』について

花束 作者: 木村紅美 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2008/10/07 メディア: 単行本 クリック: 3回 この商品を含むブログ (5件) を見る 作家のすべては処女作にあるという説があるけれど、発言者が誰にしろ言い過ぎで、たしかにデビュー作から最新作…

海岸の遠近法 木村紅美『イギリス海岸』について

イギリス海岸―イーハトーヴ短篇集 (ダ・ヴィンチブックス) 作者: 木村紅美 出版社/メーカー: メディアファクトリー 発売日: 2008/01 メディア: 単行本 クリック: 3回 この商品を含むブログ (12件) を見る 木村紅美において、海は別れの場所だ。たとえば『風…

遠い自分の空葬 上田岳弘『ニムロッド』について

第160回芥川賞受賞 ニムロッド 作者: 上田岳弘 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2019/01/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 帯が内容を語り尽している。「ドライで軽妙な展開の底につねに虚無への想像力が働く」という阿部公彦のコメントから…

昏さへのテレスコープ 木村紅美『島の夜』について

島の夜 作者: 木村紅美 出版社/メーカー: 角川書店 発売日: 2007/09/01 メディア: 単行本 クリック: 4回 この商品を含むブログ (5件) を見る 人が人を想う感情の昏さ、不気味さについて書かれた小説である。 小説は、母と折り合いの悪い「私」こと「波子」が…

難読性について 山尾悠子『夢の棲む街』について

夢の棲む街 (ハヤカワ文庫JA) 作者: 山尾悠子 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 1978/06 メディア: 文庫 クリック: 1回 この商品を含むブログ (1件) を見る 山尾悠子を読んで驚かされるのは、私たちの世界がいかに山尾悠子的な「幻想」に埋め尽くされたか…

燃焼としての時間 山尾悠子『飛ぶ孔雀』について

2018年に発刊した『私的文藝年鑑』から、山尾悠子『飛ぶ孔雀』(泉鏡花文学賞)の感想を公開します。2018年もっとも面白く読んだ小説のひとつであり、回想の意味もこめています。 飛ぶ孔雀 作者: 山尾悠子 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2018/05/11 メ…

喜ばしい唐突 保坂和志『こことよそ』について

2018年に発刊した『私的文藝年鑑』から、保坂和志『こことよそ』(川端康成文学賞)の感想を公開します。2018年もっとも面白く読んだ小説のひとつであり、回想の意味もこめています。 ハレルヤ 作者: 保坂和志 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/07/31 …

記憶への躊躇 石井遊佳『百年泥』について

『私的文藝年鑑』に収録した石井遊佳『百年泥』の感想を公開します。2018年もっとも面白かった小説のひとつで、回想の意味もあります。 百年泥 第158回芥川賞受賞 作者: 石井 遊佳 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/01/24 メディア: 単行本 この商品を…

彼岸行きの切符 木村紅美『風化する女』について

風化する女 作者: 木村紅美 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2007/04 メディア: 単行本 クリック: 4回 この商品を含むブログ (13件) を見る かつて文學界新人賞の受賞作が、ラテン語表紙の本で売り出されたときがあった。かつてといっても、この『風化す…

作家読みと時間読み(2018文学フリマ告知)

11月25日の文学フリマ「キ-8」で、清水博子という2013年に45歳で早逝した作家を主題にした本と、2018年の文学賞レビューを同人誌で出します。 前者は著作六作の感想、清水博子小論、清水博子を読んだあとに書いた小説です。 後者は熱海凌さんとの共著で、著…

君がいない地上 磯田光一『殉教の美学』について

殉教の美学―磯田光一評論集 (1971年) 作者: 磯田光一 出版社/メーカー: 冬樹社 発売日: 1971 メディア: ? この商品を含むブログを見る 磯田光一を読むのは単に秋山駿がその死を惜しんでいたのと、『鹿鳴館の系譜』という題名が何年もずっと気になっていたの…

書くことの清廉 ――清水博子『vanity』について

vanity 作者: 清水博子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2006/02/23 メディア: 単行本 クリック: 3回 この商品を含むブログ (12件) を見る これまでの清水の小説の総決算である。総決算とは一個の終焉であり、本来であれば、そこからまた歩き始める出発点で…

紙に沈む字 清水博子『カギ』について

カギ 作者: 清水博子 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2005/04 メディア: 単行本 クリック: 1回 この商品を含むブログ (14件) を見る 傑作のあとの、模索のための一作、と位置付けられる。 谷崎潤一郎の『鍵』に題材を取った小説で、互いの日記を盗み読む姉…

白黒結晶 清水博子『ぐずべり』について

ぐずべり 作者: 清水博子 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2002/10 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 3回 この商品を含むブログ (11件) を見る 傑作である。清水博子を読むならこの一冊、と決めていいかもしれない(まだあと二冊残っている)。そして…

LONG APOLOGY LETTER 笠井康平『私的なものへの配慮 No.3』の私的な感想

shitekinamono|いぬのせなか座 この理論と描写と私小説の混合物について感想を書くべきか、正直かなり迷った。まず小説以外について書くのがどういうことなのかさっぱりわからないのである。あと、理論と描写の部分がよくわからない。 たとえば批評を批評す…

時間への治癒 清水博子『処方箋』について

処方箋 (集英社文庫) 作者: 清水博子 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2005/02/01 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (5件) を見る 患者であったかは知らない。インターネットにはそれらしきことは書いてあるが、どうも作者自身がそれを明らかにしたわけ…

少女小説の敵意 清水博子『ドゥードゥル』について

ドゥードゥル 作者: 清水博子 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 1999/04 メディア: 単行本 クリック: 2回 この商品を含むブログ (3件) を見る 題名はいたずら書きの意だが、字を一個の絵と見なせば、それは戯画とも読めるかもしれない。収録された二篇に共通…

辞書の焼き方――高橋弘希『送り火』について

送り火 作者: 高橋弘希 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2018/07/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 予感がない小説である。深さの欠如ではなく、深さの拒否がある。 要約するならば、高橋の小説においては深さ、あるいは「形而上学」(保…

書くことの不潔 ――清水博子『街の座標』について

清水博子は1968年に生まれ、2013年に逝去した小説家です。1997年、この記事で取り上げた『街の座標』で第21回すばる文学賞を受賞、その後『処方箋』で2001年に野間文芸新人賞を受賞していますが(他の候補作は佐川光晴、吉田修一)計6冊の単行本を上梓した後…

可能性を聴く(創作合評と読書会について)

二年ぐらい読書会と創作合評を足し合わせたイベントをやっている。プログラムを先にまとめておくと、 ①近年、出来ればその年の文学賞受賞作を課題作として読んでもらう。 ②読みながら、あるいは読んだ後に小説を書いてもらう。小説を最後に書いてから間が空…

8.11 東山彰良『僕が殺した人と僕を殺した人』読書会+創作合評のお知らせ

文学賞受賞作の読書会、および出席者の中短編の創作合評(第三回)を開催します。 課題図書について話し合いながら、自作の感想をもらいましょう、というコンセプトのイベントです。自作の感想については、①他参加者(最低3人)による感想、②合評記録をファ…