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焦燥と承認

人は書きたいから書く。そんな純粋な行為に、書くこと自体とはまったく無関係な苦悶が伴うことがある。得られぬ評価、承認を望むが故の苦しみ、焦燥である。 書くことの承認と焦燥を主題にした短編に、菊池寛のデビュー作『ある無名作家の日記』がある。 登…

意味の検証

あの頃は、二十五枚から三十枚くらいの短編が盛んで、形容詞はこれでいいのかなどと激論をたたかわせた時代さ。私と同世代から、もっと小説家が出ても良かったんだろうが、あまりにもそういう議論がうるさくてね。書いたって、七、八行以上進みやしない。た…

小説の雰囲気

こんな雰囲気の小説を書きたい、というイメージはある。 それを実際の小説に仕立てるには、どうすればよいのか。 穏やかな小説を読んで感動する。 こんな風に穏やかな小説を、自分も書いてみたいと思う。 しかしその穏やかな小説とは、どうすれば書けるのだ…

書く人の精神衛生

書かないのが普通だ。 完成には時間が要る。書くために我慢せねばならない楽しみもあれば、この時間で出来たこと、という妄念もちらつく。ありふれた苦労でも、苦労は苦労だ。それでどこかに応募したり投稿した結果が芳しくなければ、多少はがっかりして当然…

物語の基礎

続きを思いつかない、と聞く。こういうシーン、こういう結論を書きたい、そんな最初の計画はあるけれど、肝心のそこ以外は何をどう書けばいいかわからない、という。 小説の初手については既に書いたが、それ以降をどう展開するか、という話ではない。小説を…

書きたいものがないとき

書きたいものがなければどうするか。 まず厄介なことに、小説を書きたいという漠然とした気持ちと、この題材を書きたい、という具体的な感情は、かみ合わないことが多い。書いてみたい題材があっても実際に言葉にする気力は湧かなかったり、何かしら書きたく…

小説の初手

最初が難しい。 最初さえ乗り切ってしまえば、そこまで書いたものを踏み台に出来る。途中からは楽なのになあ、と首を傾げた経験は多くの人にあるはずだ。その途中に達するまでが大変で、だから小説を新しく書くのは気が進まない。 より多く、より楽に書こう…

書く人と読む人

小説を書く人は、たしかに小説を読む人である。ところがこの二重性が、小説を読むときにまずく作用することがある。 書く人間にとって、小説を読むことは勿論楽しみであっていいけれど、それが書く助けになればもっと得だ。その小説が面白く読めれば、あとは…

なんでもない会話

今回は会話についてだけれども、まずは先週紹介した平田オリザを再び参照してみる。 引っ越しでも、法事でも、とにかく人の出入りが比較的自由な時間を見つければいい。パブリックな空間についても、たとえば火事の見物という状況設定なら、見知らぬ他人同士…

小説を長く書く技術

小説を長く書くというのは、第一に枚数を長く書くことであり、第二に長い期間をかけて書くということだ。そのためには、どのような小説の技術が有用だろうか、という話。 枚数を長く書けることと、長い期間をかけて書けるということは、根っこの意味はおそら…

勤め人のための小説指南:高橋一清『あなたも作家になれる』

題名はびっくりする。中身は真っ当だ。 芥川賞・直木賞をとる!: あなたも作家になれる (河出文庫) 作者: 高橋一清 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2015/12/08 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る 著者の高橋一清は『文學界』『オール…

書く人のための読書合評会一案:小説は勉強可能か?

ちょっと古い心理学の本で読んだ話。 スピーチが苦手で悩んでいる人間に、「うまい人はどのようにスピーチをしていましたか?」と訊ねると、「さあ」とか「よく分からないけれど、とにかくうまい」とか、「とても自分にはできない。うらやましい」などと、と…

書いてから直すか、直してから書くか

小説の指南本をめくると、「直すのは後でいい、とにかく書け!」という助言に出会うことがある。無駄に考え込むぐらいならとにかく書け、一文字でも多く書け、書きさえすれば後は直すだけだからどうにでもなる、というやつ。で、私もそのやり方を二年ほど続…

外国語の単語帳:滝本杏奈訳『感情類語辞典』

小説の言葉は外国語だなあ、とよく思う。「口ごもる」とか「はにかむ」とか滅多に使わないし、日常使いの日本語から明らかにかけ離れている。 あるいは、他人のありふれた身振りに関心を持つことは難しい。だからこそ、普段見過ごしている凡庸な動作を明晰に…